仮病になりたい

 寒くなってきたと思ったら風邪をひいてしまった。今年の風邪は喉にくるらしく、昨日から咳がとまらないのだ。

 それにしても、風邪をひくと自由な時間が奪われる上に、周りの人間に迷惑をかけるので、大変心苦しいものである。風邪をひくのが上手い人などは、忙しくないときを狙ってタイミングよく風邪をひくことができるらしいのだが、私はそれが苦手らしい。今年も早々と風邪をひいてしまい、周りに菌をまきちらすばかりなので、精神衛生上良くないのである。

 もっと小さいとき、小学生のときなんかは今と違って気楽に風邪をひくことができた。風邪をひけば学校が休めるし、ちやほやと看病してもらえる。できることなら、今の風邪を当時の自分にうつしてやりたいとさえ思う。

 小さいときは「風邪をひけたらラッキー」と思っていたので、なんとか「風邪状態」になろうと、涙ぐましい努力をした。息をとめて真っ赤な顔をしたり、わざとらしく咳をしたりして、せこく学校を休もうとしたものだ。もちろん、それだけではなく、「風邪である」という客観的証拠をつくるために、なんとかして体温計の数値を上げようとしていた。

 ストーブの近くで体温をはかったり、焼きたてパンに体温計を押しつけたり(これで体温計をひとつ壊したことがある)、涙ぐましい努力をしたものだが、一番多く利用したのが摩擦熱を使う方法である。体温計を脇にじっとはさんでいるふりをして、こっそりと服に体温計をこすりつける。秒間五往復。すると、みるみるうちに体温は上がり、三十七度の熱など簡単に演出できてしまう。

 それを、どうだと言わんばかりに両親なり先生様に見せる。さすがに、両親にはすぐ見破られて、家をたたきだれる可能性が高いので、もっぱら学校の保健室でやることにしていた。朝、学校にいってすぐに保健室に行き、体温を測らせてもらう。数秒こすって数値を見ると、ぴたり三十七度五分である。熟練のなせる技である。今思うと、先生様だって仮病だと見破っていたような気もするが、そこは他人の遠慮か大人の配慮か厳しく追及することもなく、あっさりベッドで眠らせてもらえた。

 そこで、ぬくぬくと怠惰な日々を送っていたわけだが、今思うと、なぜあんなことに熱中していたのかと、ちょっと恥ずかしい。やはり、仮病だけに熱をあげてしまうのか。