夜伽ばなし

 まくらが反乱を起こした。

 朝起きると、体のまわりに水色のプラスチック片が散乱していた。一瞬、何かの病気かと思ったが、そんなふうに考えるほうが病気だと思い直して、原因を調べた。原因は非常にあっさり見つかって、プラスチック片はまくらの中身であることが判明した。寝ている間に、私の頭の動きに耐えかねたまくらは破れてしまったようだ。繊細な人は、まくらが替わると寝られない、とよく言うけれど、この一件で自分が繊細ではないのだな、ということを改めて確認することができた。少なくとも、ベッドの中では。

 それにしても、羽毛とかもみ殻の詰まった枕でなくて良かった。もし、そんなものが入っていたら、おそらく起きたときは大惨事だっただろう。朝起きて、もし羽毛が体のまわりに飛び散っていたら、自分が鶴にでもなったのかと勘違いしたかもしれない。それで、「ついに私の正体を見てしまいましたね、ヨヒョー」とか言って、ベランダから飛び出してしまったかもしれない。つくづく、羽毛まくらでなくて良かった。

 気をとりなおして、飛び散ったプラスチック片を集め、まくらに詰めこみ直した。忘れないうちにまくら袋を買いなおすことにして、とりあえずはガムテープで補修をしておいた。「まくら袋」というものは、どこに行けば売っているのかよく知らないが、おそらく寝具売り場にでも売っているのだろう。「まくら袋」が単体で売っていなければ、まくらをまるごと買えばよい。

「いらっしゃいませ、何をお探しですか」
「まくらをひとつ」
「どんなものをお探しでしょう」
「そうだな…、きみのひざまくらはどうかな」
「やだ…お客さんったら…。ポッ」

 そのような展開は、千パーセントの確率でありえないと断言できるが、色々なまくらを見てまわるのは意外に楽しそうである。

 そういえば、だいぶ前にニュースで「まくらの展示会」なるものが紹介されていた。全国のまくら製造業者やまくら職人が腕をふるってつくったまくらを一堂に集め、その性能を紹介する、というイベントだ。その中に「腕まくら」という商品があったことだけ覚えている。本当の商品名はもっと愉快なものだったと思うが、かたちはそのまんま「腕」だ。リアルな質感をもった腕型のまくらを頭に敷いて寝るのである。業者は「ひとり身の寂しいかたに」とか言って紹介していたけど、そんなまくらを買ったら余計に寂しさがつのるだろうと思ったものだ。それを手にしていたレポーターも、どこか嘲弄の目つきをしていたことが、深く印象に残っている。

 しかし、考えてみるに、そのような「まくらの展示会」が開かれるということは、世の中にはそのイベントに出かけるような「まくらマニア」というものが存在するのではないかと思われる。「まくらフェチ」と言いかえてもいいかも知れない。そもそも「まくら」とは夜の生活に欠かせないものであるからして、熱狂的なフェティシストがいて当然だろう。人には見せられないような抱きまくらとか、人には触らせられないような質感のまくらとか、人には舐めさせられないような味のまくらとかがあるのだろう。いろいろ想像力をかきたたせてくれる。できることなら、まくらフェチのかたが薦める「至高のまくら」というのを一度使ってみたいような気もする。きっと、そのまくらは夜も眠らせてくれないに違いない。