滋賀県

滋賀県というのは、福井県と岐阜県と三重県と京都府に囲まれた県で、琵琶湖のまわりにへばりつくように人が住んでるところだ。そんな説明はないか。あー、琵琶湖にへばりついてないところもありますが、そこには忍者が住んでいます。

堀井憲一郎『東海道五十三次を歩く』

 生まれてすぐに引っ越してきたので、故郷といえば滋賀県のことである。日本地図のまん中にあるのだから多少の知名度はあるというものの、どことなく華やかさに欠けることは否めない。なんというか、漠然とした印象しか持たないところだと思う。

 「良くも悪くも琵琶湖」という言葉があって、滋賀県に住んでいない人に「滋賀県といえば?」と質問すれば、92パーセントぐらいの人は「琵琶湖」と答える。ひとつ目立つものがあるのはいいのだが、言い換えれば琵琶湖以外はあまり認知されていないということでもある。「良くも悪くも琵琶湖」なのである。もちろん「西堀栄三郎記念館」とか「イーゴス108」とかマニアックなスポットを答えられても、それはそれで何だか馬鹿にされているような気がしないでもないけれど、ちょっと「琵琶湖」と答えられるのに飽いているのも事実なのである。

 もちろん、滋賀県には琵琶湖以外に何もないわけではなく、とりあえず滋賀県に暮らす人間としては「平和堂」の存在を語らずに済ませることはできない。平和堂というのは滋賀県を中心に展開する中規模スーパーマーケットのことである。もし滋賀県を電車で旅する人がいれば、しばらく窓の外を見ているとよい。シンボルマークである白と緑のハトを、必ず十数羽は見つけることができる。ちなみに平和堂は滋賀県に61店舗もある。要するに、滋賀県は平和堂だらけである。県内のあらゆる駅前に平和堂があるといっても過言ではない。そのせいか滋賀県にある駅の出口には「西口」「東口」といった名称がつけられず、「平和堂口」「平和堂逆口」と名づけられたりする、というようなことはないのだが、これは駅の両側に平和堂が建っている場合を考慮してのことである。

 あと、平和堂は「HOPカード」というポイントカードを発行している。恐るべきことに、この「HOPカード」をほとんど全ての滋賀県民が持っている。以前、他府県の人に「滋賀県の人って、なんでみんなそのカードを持ってるの?」と聞かれたので、「これは滋賀県民のIDカードである」と答えておいたが、あながち間違いではないと思う(事実、相手は納得していた)。腰の曲がったおじいさんでもおしゃれをしたお嬢さんでもHOPカードを持っていたりする。恐ろしいことだ。もしあなたの知り合いに滋賀県民かどうか疑わしい人がいたならば、ちょっと財布を見せてもらうといい。「HOP」と書かれた黄色いカードを持っていれば、そいつは「隠れ滋賀県民」の可能性が非常に高いので、厳しく追及してあげるとよい。

 そんな感じに、私は滋賀県といえばつい「平和堂」のことを考えてしまうのだが、他府県の人は平和堂の存在すら知らないのだと思う。それに、「滋賀県といえば?」という問いに対して「平和堂」と答えられても、それはそれで虚しいような気がするので、インターネットを用いて広く世間に「滋賀に平和堂あり」と情報発信するようなことはしないでおこうと思う。やはりここは漠然とした土地なのである。

追伸 上のほうに書いた「イーゴス108」というのは滋賀県内の遊園地にある観覧車の名前である。高さが108メートルというのが日本一(当時、今は知らない)だったのが「スゴーイ」ので「イーゴス」と名づけられたのである。スゴーイ。