想い出のほかに何が残るというのか

 卒業式で泣く人と泣かない人がいる。もちろん、私は泣く人だ。「卒業したら、みんなバラバラになっちゃうのかな…」。そんなふうに、猟奇殺人にまきこまれる同級生の姿を想像して、思わず涙をこぼす。

 一方で、卒業式に泣かない人もいる。もちろん、人にはそれぞれの感じかたがあり、泣きたくもないのに泣かなければならない理由はない。ただ、それが単に性格上の問題ならよいが、本当は泣きたいのに卒業式があまりに陳腐で泣けないのだとしたら、卒業式運営者には猛省をうながしたい。もっと工夫をこらせば、どんなに冷めた卒業生であろうとも涙をあふれさせずにいられなくなるのだ。

「来賓のウミガメが産卵」

 これは効くだろう。卒業生たちは手を握り締めて、親亀に声援をおくるに違いない。そして、親亀の流す涙につられて、思わず目をうるませるのである。無事に出産を終え海へと帰るウミガメにみんなで手をふって見送る感動のシーンもよい。問題があるとすれば、来賓がウミガメということだけだ。

「我が子をかばうため、必死で来賓の目をそらそうとする親鳥」

 我が子を思う親鳥の気持ちを考え、思わず心をうたれるシーンである。この卒業式を撮影するだけで、ドキュメンタリー番組が一本とれるほどだ。問題があるとすれば、来賓が小鳥を襲うことぐらいだ。

「生き別れの校長と初めて対面する卒業生たち」

 どよめく体育館。入学式のとき「強く生きろ…!」のことばとともに姿を消した校長との再会。卒業生たちは知らないが、実は校長は、卒業生たちの実の弟だという秘められた過去が…! どんな学校だ。

「催涙ガスを投擲して、機動隊が体育館に突入」

 卒業生をテロリストあつかい。でも、どんな生徒でも泣く。留置所で家族と対面して、また泣く。一粒で二度おいしいお得なコース。

 かように、卒業生たちを泣かせる演出にはことかかない。これらを複合することで、どんな卒業生でも涙をあふれさせて学校を卒業することだろう。ただし、嬉し涙だ。