花咲く乙女たち

 冬季五輪の女子カーリングを見た多くの人が、もし自分がチームを編成するならと、理想のカルテットについて思案をめぐらせたことだろう。

 まず、欠かせないのがチームリーダーであろう。強い精神力と信念を持ち、その姿を見ただけでチームメイトは絶対負けないような気持ちになれる存在である。チームを引っ張る情熱的な言動が目立つのが特徴だ(「あたしのショットは曲げられても、魂までは曲げられないのよ!」)。

 そして、リーダーのよき補佐役が、知性派の眼鏡である。氷上のチェスと呼ばれる(らしいが、私は先日はじめて聞いた)カーリングにおいて、ともすれば熱くなりすぎるリーダーを抑え、冷静な判断で試合をコントロールする役割を負っている。

 アクセントとしては、やはりムードメーカーであるお調子者の存在が必要だろう。チームの敗色が濃厚になっても、その笑顔でチームを鼓舞し、勇気付けることを忘れない。その明るい笑顔の陰に、ちょっぴりトラウマな過去があったりするのだが、だからこそ、決してつらい顔を見せたりはしない。

 4人目は、議論のあるところだが、ここはお色気担当を入れておきたい。できれば天然ボケの要素を持っていることが望ましいだろう。ストーンを滑らせようとして転んでしまい、自分が滑っていったりする。無論、ユニフォームは一人だけミニスカートだ。誰もが「どうしてこんなやつが代表に選ばれたのだ」と思うのだが、彼女が逆転の必殺技ローリング・セクシー・コリオリ・スパークを炸裂させたとき、観客は沈黙する。

 かくして、リーダー、眼鏡、お調子者、お色気の4人で結成された理想のチームは、最高のチームワークで世界の頂点を目指して突き進むのである。だが、簡単に勝ち進めるほど勝負の世界は甘くは無い。彼女たちの前に、彼女らの弱点を調べつくして結成された最強のライバルチームが立ちはだかる。

 まず、リーダーに対抗すべく選ばれたのが「卑屈」である。情熱的なリーダーにとって、まるで信念など無いかのように無用に自分を貶めて薄笑いを浮かべている奴を見ることは耐え難いことなのだ。リーダーがにらみつけると、顔色をうかがうように下から見上げてくる「卑屈」を相手に、リーダーは本来の力を発揮できない。

 眼鏡に対抗するのは、「孤高」である。秀才タイプの眼鏡は、テストの五科目合計ではいつもトップの座を保持している。だが、テストなんてまるで知らぬかのように独特の雰囲気を醸し出しながら校庭を眺めている「孤高」には、微妙なコンプレックスを抱いているのである。負けたくない。そんな対抗意識が眼鏡の歯車を狂わせ、いつものように冷静な判断ができず、ペースを乱してしまう。

 そして、お調子者の相手が「ゲラ」だ。こいつは、お調子者がちょっとおどけてみせただけで、突然横から顔を出して手を叩きながら笑い出す。しかも「こいつ、何がおもしろいかわかってないくせに、とりあえず雰囲気を良くするつもりで笑ってんだろうな」と思わせる笑いなのだ。こいつの笑い声を聞くと、かえって不愉快になる。かくして、チームメイトの笑顔は凍りつき、次第に気まずい雰囲気になっていくのだ。

 最後に、ある意味では敵にまわすと最もやっかいなタイプと恐れられるお色気に対抗すべく送り込まれたのが「仔犬」だ。お色気は、試合中も仔犬のことが気になって仕方が無い。チラチラと見てしまう。ましてや、ストーンのコース上に仔犬が迷い込んだりしたら、「だめっ」と自ら投げたストーンを抱え込んでしまう。

 かくして、最強のライバル「卑屈」「孤高」「ゲラ」「仔犬」を相手に、主役チームは死闘を繰り広げることになる。お互いに持てる力を出し尽くし、一進一退の勝負のすえ、主役チームは勝利を得る。だが、そのために払った代償は小さなものではなかった。チームメイトの危機を身を投げ出して救ったお調子者のことを、彼女たちは決して忘れることはできないだろう。残されたチームメイトは、唇を噛み締めて涙をこらえていた。リーダーが空を見上げると、そこにはお調子者の笑顔がみえた。そして、いつものように「スマイルだぞっ」といっているような気がした。

 そんな彼女たちが、青森地区予選2回戦で敗退することを誰が想像しただろうか。