牧場の少女カトリ
1984年1月8日~12月23日放映(全49話)
カトリは勤労少女である。シリーズの前半は家畜番、後半は子守りが主な仕事だが、オプションで台所仕事、麦の刈入れ、羊の毛刈り、機織りなど様々な仕事をこなしている。数えてみると、全49話のうち40話で何らかの仕事をしており、働いていない回はだいたい次の職場へ移動中である。
左『牧場の少女カトリ』8話 家畜番のカトリ
右『牧場の少女カトリ』33話 麦の刈入れを手伝うカトリ
カトリは隙あらば働こうとする。マルティという近所の裕福な家の子と知り合うと、さっそく「私をあなたのところで働かせてくれないかしら」と仕事の斡旋を頼んでいる。マルティに「まだ小さいのに」と言われても、カトリはいうのだ。
「でも働きたいの」(2話)
私が生まれてから一度も言ったことのないセリフである。 というか、「でも」の後に続くのが「働きたくない」以外に存在することに驚いた。
やがて、マルティの紹介でカトリは家族のもとを離れて奉公に出ることになる。心配するマルティに、カトリは9歳にしてこういうのだ。
「私ね、仕事がつらいことはわかっているの。だから少しくらいつらいのは我慢する。一生懸命がんばるつもりよ」(5話)
私が9歳のころは、おもしろいダジャレを考えてノートを埋めることなどに夢中だったものだが。
そして、仕事を通じて広い世界に触れたカトリは、単純労働だけでは物足りなくなってくる。
「私、今、心から思っているの。学校に行きたいって。働くのがいやだっていうんじゃないの。でも勉強したいの。勉強して、世の中のことをもっともっと知りたいの、わたし。」(15話)
「私が働くといったのは、たとえばひとの役に立つ仕事がしたいのです。たとえば看護婦とか学校の先生とか。いえ、簡単になれるとは思っていません。でも一生懸命努力すれば…」(30話)
そんなふうに考えていると、カトリを見込んだロッタ奥様に、都会に連れて行ってもらい、学校も行かせてもらえることになる。たぶん、私でもそうしてあげたくなると思う。
「トゥールクで働けるなんて、夢にも考えなかったんです。あっちの農場、こっちの牧場とまわり歩いて一生を終わるんだと、ついこの間まで思ってたんです。」(40話)
カトリは自らの頑張りでチャンスをつかむ。なぜ、そんなに頑張るのかを考えてみると、つきつめると結局は「もっと働きたい」ということなのだ。最終話でいったん帰郷したカトリは、かつての家畜番仲間にいう。
「わたしはきっと学校を卒業したらこっちへ戻ってくるわ。そんな気がする」
それに対して、家畜番仲間は寂しそうにこうつぶやく。
「いや、カトリは戻らないと思う」
カトリは何も返事をせず、前を見つめたまま物語は終わる。カトリはどこまでも昇っていけそうである。
もし、カトリが日本生まれだったら、いまごろ「カトリ神社」がつくられて、就活とか出世にご利益のあるパワースポットになっていたことだろう。